サッカーのオフサイドは「最も理解しにくいルールのひとつ」とも言われ、試合の勝敗を左右するほどの重要性を持つ。しかしこのルール、現在の形に落ち着くまでに実に160年以上にわたって幾度も改定が行われてきた。1863年のFA発足時から最新のVAR・セミオートメーション技術の導入まで、その変遷を時系列でひもといていこう。なお、本記事の情報はソース確認時点のものであり、今後のIFABによるルール改定で内容が変わる可能性がある。
オフサイドルール歴代変遷一覧
【起源】1863年以前:「ゴールハンギング」は卑怯な行為だった
- 17世紀初頭:コーンウォールのハーリング(hurling to goals)
現代のオフサイドに類似した概念がすでに存在しており、「ボールを持つ者より相手ゴールに近い味方へパスしてはならない」というルールが記録されている。フットボール以前の球技にまでその思想は遡ることができる。
- 1832年頃:イートン校「スニーキング(sneaking)」
イートン・ウォールゲームでは、相手ゴール近くに陣取って待ち構えるプレーを”sneaking”(こそこそする)と呼んで禁じていた。このような行為は「紳士にあるまじき行為」として道徳的に糾弾される風潮があった。
- 1845年:ラグビー校が初の成文ルールを発布
「ボールより前にいる選手はオフサイドである」という厳格なルール(ストリクト・オフサイド)が規定された。これは現在のラグビーのオフサイドに近い考え方で、ボールより前の選手は一切プレーに関与できなかった。
- 1856〜1863年:ケンブリッジルール「4人ルール」
相手の守備側が4人以上いれば、前方にいる選手もオフサイドにならないという「4人ルール」が採用された。この発想が後のFA規則に大きな影響を与えた。
【FA設立後】1863〜1900年代:近代フットボールの骨格形成期
- 1863年:FA(フットボール・アソシエーション)設立とオフサイド規定
ボール保持者より前方にいる選手は全員オフサイドという厳格なルールが採用された。これはラグビー式のルールと同様であり、前方へのパスによる展開は事実上できなかった。
- 1866年:スリープレイヤー・ルール(3人ルール)の導入
相手ゴールと自分の間に相手選手が3人以上いれば、オフサイドにならないと緩和された。これにより前方パスが許容され始め、近代的なフットボールの戦術が生まれる素地ができた。
- 1878年:スローインからのオフサイドを適用
スローインで直接ボールを受けた場合もオフサイドの対象となると規定された。
- 1883年:コーナーキックからのオフサイドを除外
コーナーキックから直接ボールを受けても、オフサイドの反則にならないとIFABが統一ルールとして定めた。
- 1907年:自陣ハーフではオフサイドなし
選手が自陣内にいる場合はオフサイドが適用されないと変更された。これにより守備側がラインを上げる戦術にも変化が生まれた。
【20世紀前半】1925年の大改革:最大のゲームチェンジ
- 1925年:ツープレイヤー・ルール(2人ルール)へ変更
従来の「3人」から「2人」へと引き下げられた。つまり、相手ゴールと自分の間にいる相手選手が2人(通常はGKともう1人のDF)であればオンサイドとなる。これは歴史上最大のオフサイドルール改定であり、攻撃側が格段に有利になった結果、ゴール数が急増したと言われている。
【20世紀後半】1990年代:「同一線上」でオンサイドへ
- 1990年:攻撃側が「同一線上」にいてもオンサイドと明確化
それまで曖昧だった「より前方にいる」の解釈が見直され、攻撃選手が守備側の2番目の選手と「同一線上(level)」にいる場合はオフサイドにならないと明確化された。これにより、わずかな差でゴールが取り消されるケースが減少した。
【2000年代以降】テクノロジーと法律の精緻化
- 2005年:身体のどの部位で判定するかを明文化
IFABが「頭・胴体・足」の任意の部分が守備側の2番目の選手より前にあればオフサイドポジションとする、という規定を追加した。同時に「腕は判定に含まれない」と明文化されている。
- 2009年:守備側選手がフィールド外にいる場合の規定追加
守備選手がフィールドの外に出ている場合は、ゴールラインがその選手の代わりとなる例外規定が設けられた。
- 2016年:ハーフウェイライン上はオンサイドと明確化
センターラインそのものの上にいる選手はオフサイドにならないと整理された。
- 2017年:「プレーへの干渉」の定義をさらに詳細化
オフサイドポジションにいる選手が移動することで相手選手の動きを妨げた場合もオフサイドの反則になると明確化された。
【現在】VAR・セミオートメーション技術の導入
- VARの導入(2010年代中盤〜):「待ってから旗を上げる」運用へ
VAR使用試合では、アシスタントレフェリーは明らかなオフサイドでない限り、旗をすぐに上げずにプレーを続けさせることが義務付けられた。得点後にVARで確認する手順が定着し、誤ったフラッグアップによるゴール取り消しを防ぐ運用が標準化されている。
- SAOT(セミオートマティッド・オフサイド・テクノロジー):2020年代中盤から高レベル試合で採用
複数の高速カメラで選手の位置データを3Dモデル化し、ボールが蹴られた瞬間の各選手の身体の位置を精密に算出する技術。スタジアムと放送画面に3D再現映像が表示されるようになり、判定の透明性と速度が大きく向上した。
編集部の見解
オフサイドルールの歴史を俯瞰すると、大きな流れとして「厳格化→緩和→精緻化」という繰り返しが見えてくる。1863年には事実上ボールより前への移動すら禁じられていたが、1866年・1925年の改定でどんどん緩和され、攻撃側が前線に侵入しやすくなった。一方で、緩和によってゴールが増えると今度は「どこまでが干渉か」という曖昧さが問題となり、2005年や2017年の改定では言葉の定義を非常に細かく整備する方向へ進んだ。
特に注目すべきは1925年の「3人ルールから2人ルール」への変更で、これ一つでゴール数が劇的に変化したとされることだ。ルールの数字一つが戦術の根幹を変えるほどのインパクトを持つことを示す典型例である。
また、VARとセミオートメーション技術の登場は、「人間の目では判定が不可能に近い」という長年の課題への技術的回答だ。研究者の中には「オフサイドの誤審は視覚的に避けられない」と論じる声もあるほどで、テクノロジーの介入はルールの公平性を担保する意味でも不可欠と言えるだろう。とはいえ、センチメートル単位の判定で得点が取り消されることへの疑問の声は今もなお根強く、ルールはこれからも進化し続けるに違いない。
情報源
- Offside (association football) – Wikipedia) – Wikipedia(英語版)
- Laws of the Game (association football) – Wikipedia) – Wikipedia(英語版)

