ペップ・グアルディオラ前監督の退任を受け、エンツォ・マレスカ体制でスタートを切ったマンチェスター・シティが、プレミアリーグ史上最高額となる夏の移籍総額£458mで大規模なスカッド再構築を完了した。看板の中盤は完全に入れ替わり、チェルシーからの大型補強エンツォ・フェルナンデスが加わったことで期待感は高まる。だが一方で、エルリング・ハーランドの控えに当たる選手が不在という重大なリスクが内包されたままシーズンに突入している。今季のシティが優勝争いを制せるか、それとも「最大のギャンブル」が命取りになるのか——構造的な問題を解き明かす。
今夏の主要移籍:中盤トリオ£327mの衝撃

TheSportsDB / Erling Haaland
主要な動き:エンツォ・フェルナンデス(£125m)、エリオット・アンダーソン(£116m)、アユーブ・ブアディ(£86m)の3人で構成される「新中盤」が今夏のシティ補強の中核を担った。
夏の移籍窓でシティが達成したのは、単なる補強ではなく「中盤の完全解体と再建」だ。2024年バロンドール受賞者のロドリ、キャプテンのベルナルド・シルバ、そしてティアニ・レイニデルス、ニコ・ゴンザレスといった主力が全員退団し、今季のシティ中盤は顔ぶれが一新された。
なかでも最大の目玉はエンツォ・フェルナンデスだ。25歳のアルゼンチン代表MFはチェルシーでマレスカ監督のもとでキャプテンを務めており、指揮官の信頼は絶大だ。マレスカ監督は「彼は勝者のメンタリティを持っている。チームから何人もの選手が彼の加入を心待ちにしていた」と語り、獲得後に即座にシティデビューの準備が整っていると明言した。(BBC Sport)
イングランド代表の新鋭エリオット・アンダーソンはノッティンガム・フォレストから£116mで加入した英国人記録をさらに塗り替える金額での獲得となり、18歳のモロッコ代表アユーブ・ブアディは£86mで将来の核として迎え入れられた。
売却面でもシティは巧みだった。プレミアリーグで2ゴールにとどまったサビーニョを£75mで放出し、ロドリを£65m、レイニデルスを£52mで売却。今季の純支出は£208mに抑えられており、加えてトッテナムによるオマル・マルモウシュの£60m買い取り義務(ローン終了後)によってさらに収支は改善する見込みだ。(BBC Sport)
ハーランド「一本足打法」という最大のギャンブル
今夏の補強で最も議論を呼ぶのは、£458mを費やしながらエルリング・ハーランドのバックアップを確保しなかった点だ。ストライカーへの投資はゼロに近く、ハーランドが怪我やコンディション不良で離脱した場合のプランBが見えない。
今季シティには他にもウィンガーとしてイリマン・ンディアイエとアランが加入したが、センターフォワードの控えは整備されていない。マレスカ監督がチェルシー時代に実践した「ニコ・オライリーをMFで起用し柔軟性を高める」手法を踏まえると、ハーランドの代役には既存選手の役割転換で対応する構えとみられる。しかし本格的なCFの代替は難しく、これは明確な弱点だ。(BBC Sport)
シティ内部の評価としては「スカッドの総合力は昨季の開幕時点を上回っている」とされており、ほぼすべてのポジションに主力と控えを揃えているという自信がある。だがその楽観論は、ハーランドが健在であることを前提としている点で脆い。
エンツォ・フェルナンデス加入の舞台裏
フェルナンデスのシティ加入は一筋縄ではいかなかった。ソースによると、同選手はチェルシー脱出の意思を年始の時点から固めており、マレスカ監督との会話を経ても翻意しなかった。チェルシーのザビ・アロンソ監督は「彼が当クラブのために成し遂げたことは素晴らしい。だが前に進む時だ。どのポジションにも質の高い選手が揃っている」と移籍を受け入れるコメントを残した。(BBC Sport)
フェルナンデス本人は加入後のインタビューで「シティほどのクラブに所属することを夢見ていた」と発言し、これが前クラブへの皮肉として受け取られる場面もあった。マレスカ体制ではルーベン・ディアスが新キャプテンに就任し、フェルナンデス、マルク・ゲイ、ジャンルイジ・ドンナルンマがリーダーグループに名を連ねる。
戦術的考察
マレスカ監督が得意とするのは、中盤に技術力と球出し能力に優れた選手を配置し、高いポゼッション率からポジショナルな攻撃を組み立てるスタイルだ。今夏の補強はその哲学に沿ったものと言える。
フェルナンデスはワイドな視野と長短のパスを使い分ける能力、そして攻撃の最終局面に絡む運動量を兼ね備えており、かつてのケビン・デ・ブライネが担ったような「ゲームをコントロールしながら決定的な仕事もできる選手」に近いプロファイルだ。アンダーソンはボール奪取からの速い展開を得意とし、10代のブアディは技術的に高い潜在能力を持つが、即戦力としての起用には慎重な運用が求められる。
問題はこの3人をどう共存させるかだ。フェルナンデスをインサイドハーフやディープライイングなプレーメーカーとして使うのか、アンダーソンをより守備的な位置に置くのか——最適解はシーズンを通じて模索することになる。ロドリが担っていた「アンカーとして試合を支配するピボーテ」の後継者が明確に存在しないことも、守備構造の安定という観点では懸念点として残る。マレスカ監督自身がシーズン前に「新しいロドリが必要だ」と語っていたことは、この課題を本人も認識しているということでもある。
数字で読む
- 今夏の総支出:£458m(プレミアリーグ史上最高記録)
- 中盤トリオ3選手合計:£327m
- エンツォ・フェルナンデス:£125m(英国人記録タイを達成)
- エリオット・アンダーソン:£116m(同時期の英国人記録)
- アユーブ・ブアディ(18歳):£86m
- 年明け以降の総支出:£542m
- 同期間の売却収入:£334m(サビーニョ£75m、ロドリ£65m、レイニデルスなど)
- 今季の実質純支出:£208m
- トッテナムによるマルモウシュ買い取り義務:£60m(来季終了後)
£125mという数字はチェルシーが当初フェルナンデスに支払った移籍金(約£107m)を上回り、実質的な「高値売却」とも言える。シティが支払ったこの金額は、プレミアリーグの英国人移籍市場において新たな基準点を作った。
編集部の見解
今夏のシティの補強戦略は、大胆さと計画性が同居している点で評価できる。売却益で純支出を抑えながら、監督が直接熟知する選手(フェルナンデス)を最優先で確保し、中盤のクオリティアップを図るアプローチは正解だ。しかし「ハーランドに何かあったら」という問いへの回答が今夏ついに示されなかったことは、クラブ経営として明らかに不完全だ。
プレミアリーグの過去を振り返っても、1トップに全依存するチームがシーズン終盤に失速するケースは繰り返されてきた。ハーランドがコンディションのピークを維持し続ける保証はなく、タイトルを争うチームに必要な「深みと代替可能性」がCFポジションにはない。マレスカ監督がどれほどの戦術的柔軟性を見せたとしても、ハーランドが長期離脱した場合の失点は避けられない。
一方でポジティブな見方もある。中盤がフレッシュかつ技術的に洗練された選手で固められたことで、昨季までのチームが抱えていた「老齢化と疲労」の問題は解消されつつある。フェルナンデスとアンダーソンが連係を深め、マレスカの戦術を吸収するまでに何試合かかかるか——そのピリオドをどう乗り越えるかが、タイトル争いにおける最初の試練になる。
今後の注目点
まず直近では、マレスカ体制でのシティのリーグ戦序盤がどのように推移するかが焦点だ。特にフェルナンデスが「新たなゲームメーカー」として機能し始めるまでのアダプテーション期間が鍵を握る。コビントリー・シティとのホームゲームが彼のデビュー戦になるとマレスカ監督は示唆しており、初陣のパフォーマンスに注目が集まる。
中長期では、ハーランドのコンディション管理がシーズン全体を左右する最大の変数だ。万が一の長期離脱時、誰がゴールを量産するのか——この問いへの答えが得られないまま冬の移籍窓を迎えた場合、シティは1月補強を余儀なくされる可能性が高い。
また、ブアディ(18歳)が即戦力として台頭できるかどうかも注目だ。£86mを投じた若手の成熟スピードは、今後数ヶ月のシティの「スカッド全体の底上げ」において重要な意味を持つ。アーセナルとの首位争いが本格化するクリスマス前後までに、新中盤が機能するかどうかが優勝への分岐点になる。
情報源
- Man City buy costly new midfield – but have they overlooked Haaland cover? – BBC Sport
- Several players wanted Fernandez updates – Maresca – BBC Sport
- Enzo Maresca reveals Man City transfer latest with Chelsea FC braced for Enzo Fernandez bid – Evening Standard
- Man City’s Community Shield defeat to Arsenal revealed the scale of the job facing Enzo Maresca on eve of new Premier League season – Sky Sports